愛とは
初めて西の地方に来てからもう3年ほど経った。
一人暮らしに慣れるのに1年
こちらの気候と人に慣れるのに1年
学校に慣れるのに1年
この3年はなんとも早かった。
学校は殆どが西生まれで
チラホラと僕のような他地方出身がいるようで。
学校に慣れたとは言え、みんなの輪に入ることは難しく
一人本を読むのがあたりまえになってる。
昼休みや放課後には図書館を利用することも多い。
自身の知識を増やし、勉学へ励もうと思っていたこの学校で
言うなれば、地味で根暗な生徒として生活してる。
別に周りがからかったり馬鹿にするようなことも無いので
僕自身この状態で何も問題は無く、むしろ自分の時間を作れてとても有難いとも思っている。
しかしながら問題もある。
例えば、他の者に話しかけるのが難しいとか。
そもそもなんと声をかけたらいいかわからないとか。
…この3年まともに学校の生徒とコミュニケーションを取れずにいる。
そんな僕は、気になる人が出来たとしても
彼女へ声をかけることも、存在をアピールすることもままならなかった。
彼女は朧車と言う妖怪で、本来牛車であるべきなんだろうが、流石に色々不便な様で
ほぼ人と同じ姿をし、自転車通学をしていた。
明るく気さくで勉強もでき、可憐な向日葵の様な彼女は学校の人気者。
だけれど、僕にとって彼女はまさしく
『高嶺の花』という存在だった。
彼女を気になっても話しかけるのは勿論、目を合わせることもできなかった。
僕が西へ来てから約4年、
彼女の存在を知ってからは約2年。
冬休みがやってきた。
休みであるから基本的に学校へ来る人はいない。
でも図書館にはレポート制作等で利用している者もいて
チラホラと影が見える。
因みに僕は、ただ家にいても暇だし
図書館の膨大な量の本を読むのが楽しかったのでほぼ毎日図書館へ通ってた。
ある日、空はどんよりと曇り
北生まれの僕にはそこまでだったが、西の人にはとても寒い日だったそうで。
いつも通り周りはレポートや課題で何かと忙しそうな中
僕は一人本を読みふけっていると
すぐそばで何かが揺れる気配がした。
「隣お邪魔してもいいかな?」
ふと聞こえた声に心が止まりそうだった。
いつも遠くから聞こえてた向日葵の様な声。
自分へ向けて欲しいと、でも決して向けられることはないだろうと、
そう思っていた声が
すぐ傍から聞こえた。
「あっ、あのっ!お隣いいでしょうか…っ!」
僕へ声をかけているとは考えられず
近くから聞こえた彼女の声に心奪われていたら
先程よりもすこし大きめに、改まった言い方で声が聞こえた
「…ぇ…あ、ぼ…私…ですかぁ…?」
現状が信じられず物凄くどもった声しか出なかった。
きっと今僕の顔は真っ赤だろう。とても恥ずかしい。
しかし、意を決し彼女の顔を見ると
彼女もまた少し頬を赤くし、緊張した面持ちで
「はいっ!」と答えてくれた。